かつての短パン少年が挑む“極上の重圧”─角田裕毅、表彰台を見据えて鈴鹿レッドブルデビューへ

2025年のF1日本グランプリで、角田裕毅がついにレッドブル・レーシングの正ドライバーとして母国鈴鹿に挑む。その胸中を語った最新のインタビューには、昇格の舞台裏からRB21への印象、ホンダとの思い出、冗談交じりの過去秘話まで、角田の等身大の言葉が詰まっていた。

「まさか鈴鹿で走るとは」想定外の昇格と“人生で一度きり”のプレッシャー

ホンダ青山本社ビルで行われたトークイベントには、約400人のファンが集結。その場で角田は、「まさか日本グランプリで、いきなりレッドブル・レーシングのマシンをドライブするとは思っていませんでした」と率直な心境を明かし、昇格の知らせを「現実味がなかった」と振り返った。

「いろんなことがバタバタすぎて、嬉しいという気持ちをゆっくり噛み締める余裕はなかったですね。ただ、意外と落ち着いてもいました」と明かし、「すべてが噛み合って、今いい状態でここに立てていると思います」と現在の心境を語った。

そして、「これ以上にないプレッシャーとチャレンジングな状況は、おそらく人生で一度きり。それが一番楽しみです」と、力強く前向きな姿勢を見せた。

「特別に難しい印象はなかった」RB21への印象と手応え

レッドブルのリザーブドライバーとして臨んだ今季初めのシートフィッティングについて、角田は「どうせ乗らないと思っていたので、正直ちょっと適当に作った部分もありました。1回座って、もうこれでいいよ、みたいな感じで」と軽い気持ちで挑んでいたことを告白。「まさかそのシートを使うことになるとは」と苦笑しつつ、今回は真剣に調整し直したという。

レッドブルでの初陣の舞台は、今週末に控える日本GPのフリー走行1回目。ドライバー泣かせで知られる、ピーキーな特性と狭いセットアップウインドウを持つRB21を初めてドライブすることになるが、角田はすでに2日間のシミュレーター作業を終えており、「特別に難しい印象はなかった」と自信をのぞかせた。

「レッドブルの“前が曲がりやすいクルマ”というイメージは確かにありました。でも、それが特別に難しいとか、変な印象はなかったですね。もちろん、それはあくまでシミュレーター上の話ですけど」

「マックス(フェルスタッペン)とはクルマに対する好みも違うと思うので、僕は僕で自分に合った良いクルマを作って、まずはマシンの理解を深めて、FP1から徐々に走っていければなと思います」

昨年末のポストシーズンテストでのレッドブル初走行についても言及。「普通に乗れる感じだった」と振り返りながら、レッドブルが自身のドライビングスタイルに合っていると口にしていたことについては、「ちょっとセールストークも入ってたかもしれませんけど」と冗談を交え、会場の笑いを誘った。

表彰台への現実的なアプローチ「まずは楽しむこと」

「あまり期待値を上げたくないのが正直なところ」としながらも、鈴鹿での目標は「表彰台」と明言。一方で、「最初からうまくいくとは思っていない」と冷静な見通しも示した。

「まずはRB21がどういうクルマなのか、VCARBと比べてどんな挙動なのかを少しずつ確かめていきたい」と語り、「楽しんで乗れれば、結果はついてくる」と自然体で臨む姿勢を見せた。

原点のカート時代とタイヤマネジメント

角田の原点を語るうえで欠かせないのが、カート時代の師匠である道上龍の存在だ。全日本カート選手権KFクラス時代の角田について、道上は「鈴鹿南コースで最後尾から優勝したレースは忘れられない」と振り返る。

当時の自身について角田は、「知識がなくて、キャブの調整ができずによく壊していた」と述懐。また、現在F1で高く評価されているタイヤマネジメントについても、「マジで下手でした(笑)。というか、タイヤマネジメントなんて考えてなかったです」と苦笑し、「F4までは『とにかく全開!』って感じで毎周走ってました」と笑顔を見せた。

ホンダとともに走る最後の鈴鹿─感謝と未来へのエール

2025年はホンダがレッドブルにパワーユニットを供給する最後の年でもある。角田は、初めて東京青山のホンダ本社を訪れた際の思い出を反省を含めてこう振り返った。

「たしか17歳ぐらいで、高校の帰りにTシャツと短パン姿で行ってしまって。普通の高校生、中学生みたいな格好で、初めてのミーティングに臨んだのを覚えています」

そんな原点を思い起こしながら、角田は「ホンダの最終年というこの特別なタイミングで、最高のホンダエンジンを積んだレッドブル・レーシングのマシンで鈴鹿を走れることは、なにかのご縁だと思います」と語り、「これまでの感謝を込めて、そしてこれからのホンダの未来に向けて、エールを届けるような走りをしたい」と決意を口にした。

母国鈴鹿、ホンダ最終年、そしてレッドブルでの念願のデビュー。あらゆる要素が重なった特別な一戦に挑む角田裕毅の走りに、日本中が注目している。

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「どうしちゃったの、私」「何なのココは」の連続…人気クルーズ旅5泊6日でわかったとんでもない幸福感と総費用

「スロー&ラグジュアリー」なクルーズ旅人気が大変なことになっている。2度乗船した経験のある女性生活アナリストの山本貴代さんは「どの船に乗っても信じられないほどの非日常感を満喫でき、長期滞在する人やリピーター客が多いのはよく理解できる」という――。 写真=iStock.com/Yata(左)/Bjoern Wylezich(右) ※写真はイメージです 「スロー&ラグジュアリー」だけではない納得の魅力 クルーズ旅行への関心が急速に高まっている。 2024年の訪日クルーズ旅客数は約144万人(国土交通省調べ)で、これは前年の実に約4倍。クルーズ船の寄港回数は2479回(外国クルーズ船1923回、日本クルーズ船556回)で、日本の港は連日大賑わいだ。 背景にあるのは何かといえば、スピードが重視される現代社会の中で満喫できる「スロー&ラグジュアリー」の心地よさだろう。 クルーズ会社は積極的に日本市場を開拓しており、中でも、日本各地を巡る周遊コースは、お祭りや歴史的な名所、美しい景色やご当地グルメを楽しむことができるのが魅力である。そこに台湾や韓国がプラスされ、ちょこっと異国も楽しめる5泊程度のクルーズは後述する料金が比較的リーズナブルということもあり、大人気になっている。 3月上旬、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは日本を拠点とするクルーズ船事業に進出すると発表した。2028年度の就航を目指し、船内でミッキーマウスなどのキャラクターが出演するショーを楽しめるようにするということで、国内でのクルーズ旅行はますます注目を浴び、特にファミリー層に向けた新たな選択肢として期待が高まりそうだ。 とはいえ、クルーズ旅行にピンとこない人も多いだろう。そこで、2度乗船した経験のある筆者がその魅力を考察してみた。 筆者の乗船1回目は2023年、イギリス船籍のダイヤモンド・プリンセス号(バルコニー付き/5泊6日/長崎・釜山)、2回目は2024年、イタリア船籍のMSCベリッシマ号(内側客室/5泊6日/鹿児島・済州島)である。 写真提供=筆者 ダイエットして臨んだダイヤモンドプリンセス号でのクルーズ。ついついポーズをとりたくなる 乗ってわかったクルーズ人気の理由1「非日常空間」 英国船は“静かな邸宅”、伊船は“陽気なフェスタ会場” 「クルーズ船って、どこも一緒ではないか?」。かつてはそう思っていた。でも2隻目に乗った瞬間、すぐに気がついた。「これは、まったく別の旅だ」。一歩乗り込んだ瞬間の「空気」が違った。 2年前の人生初のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(以下、DP)と、2度目のイタリア船籍のクルーズ客船MSCベリッシマ号(以下、MSC)。どちらも海の上での非日常を体験できる素晴らしい旅だけれど、まるで性格が違う。そしてその「性格」が、そのまま乗る人の気分や印象を左右するのだと知った。 DPは、こぢんまりとしたサイズ感が特徴(約11万6000トン)。落ち着いた雰囲気と細やかなサービスが提供され、静かな時間を重視し、ゆったりとした旅のペースが魅力となっている。どこかクラシカルで落ち着いている。静かなホテルにチェックインしたような、ゆったりした時間の流れを感じた。乗客同士の会話も穏やかで、廊下ですれ違うと「Excuse me」が自然に出てくる。廊下の椅子には、新聞を読んだり、本を片手に紅茶を楽しんだりするシニアがいて、大袈裟に言えば、英国のマナーハウスに滞在しているようだ。 一方、昨秋に乗ったMSC(約17万1000トン)は、その巨大な船体が特徴で、まるで街の中を歩いているような感覚だ。多彩なエンターテインメントや広々とした施設が揃っており、豪華さと楽しさを兼ね備えた体験が提供されている。乗船の瞬間から「ボンジョールノ〜!」という挨拶が飛び交い、笑顔と音楽に包まれる。クルーも乗客もよく喋り、よく笑い、すぐに踊る! 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